細胞三次元培養による細胞塊・スフェロイドとは?
再生医療分野において、細胞を三次元培養した細胞の塊、すなわち細胞塊(さいぼうかい)またはスフェロイド、胚様体が、次の用途で注目されています。
1.移植治療
2.臓器再生・オルガノイド培養
3.がんなどの治療法の研究
4.薬剤スクリーニング
弊社は細胞塊の培養デバイスの製造販売、細胞塊の加工販売、細胞塊を用いた新たな治療法の開発を手掛けています。
細胞塊の用途1.細胞塊を用いた移植治療
昨今、整形外科や美容皮膚科を中心に、自家間葉系幹細胞を用いた移植治療が多くの医療施設で行われています。
幹細胞の細胞単体に比べて、幹細胞が数千個凝集した幹細胞塊の方が、サイトカインや成長因子が多く産出されるため、移植した際の治療効果が高いのではないかと考えられています。
膝関節への幹細胞塊移植と幹細胞移植を比較した臨床研究によると、
幹細胞塊の方が炎症が抑えられていることが示唆されています。
なお、弊社は自前の細胞加工施設を持たない医療施設に対して、幹細胞塊の加工を行う細胞加工施設をコーディネートすることができます。
細胞塊の用途2.臓器再生・オルガノイド培養
昨今、世界中の研究機関で臓器再生やミニ臓器と言われるオルガノイドの研究が進められています。国内の研究事例の一部だけでも、下図のような研究事例があります。弊社も大学による膵島再生や半月板再生などの研究に協力させていただいております。
臓器を再生する際には、臓器によって名称は異なりますが、細胞を凝集させた塊、すなわち細胞塊を作り、分化誘導を進めて、臓器の機能を備えたオルガノイドの状態にする手法がとられます。
弊社の細胞塊培養デバイスや細胞塊培養技術が、これらオルガノイド培養、臓器再生の研究の一助になれば幸いです。
TASCLで培養した心筋細胞(クリックすると拍動映像あり)
細胞塊の用途3.がんなどの治療法の研究
特にがん治療の研究において、特定のがん細胞のスフェロイド(細胞塊)をつくり、その機能を確認したり、薬剤の反応を確認することなどが行われています。
弊社の細胞塊培養デバイスTASCLや細胞塊培養技術が、このような研究の一助になると幸いです。
実験医学別冊「患者由来がんモデルを用いたがん研究実践ガイド」に「TASCLを用いたがんスフェロイドの形成プロトコル」の記事が掲載されています。
(参考)
(関西医科大学 生理学講座 林 美樹夫先生)
細胞塊の用途4.薬剤等のスクリーニング
医薬品や化学薬品などのスクリーニングテストにおいて、従来は細胞との反応を確認することが行われていました。
しかし、2次元の細胞より3次元の細胞塊の方が、より人体に近い検査結果が得られるというデータもあります。
そのため、細胞塊を用いたスクリーニングテストが行われることが期待されます。
細胞塊・スフェロイドの培養・三次元細胞培養
細胞の三次元培養によりスフェロイド・細胞塊を培養する方法としては、次のような方法があります。
・ハンギングドロップ法
・スキャフォールドを用いた培養
・浮遊培養
・マイクロプレート(TASCL以外)を用いた培養
・TASCLを用いた培養
・ハンギングドロップ法
シャーレの蓋などに培養液を吊り下げて、培養液の液滴の底部でスフェロイド・細胞塊の培養を行うものです。しかしハンギングドロップ法は技術が必要で、手間もかかり、スフェロイド・細胞塊を大量培養するには向きません。また培養される細胞塊の大きさは不均一です。
・スキャフォールドを用いた培養
スキャフォールドとは細胞が凝集するための足場材のことです。様々なスキャフォールドがあり、培養方法も様々です。一般に、スフェロイド・細胞塊を、スキャフォールドごと用いる場合や、スキャフォールドによりスフェロイド・細胞塊に影響を与えようとする場合は、有効な方法と言えます。しかし、スフェロイド・細胞塊をスキャフォールドから取り除いて用いる場合には、スキャフォールドによっては、異物の混入リスクや細胞にダメージを与えるリスクがあり、細胞の品質に支障が生じる可能性があります。
・浮遊培養
培養液が入った容器の中で細胞を浮遊させて、容器を回転させることで培養液を循環させて、スフェロイド・細胞塊を凝集させて培養する方法です。手間がかからず、効率的に多くのスフェロイド・細胞塊を培養できるメリットがあります。しかしながら、スフェロイド・細胞塊の大きさ・形状・品質は不均一となります。
・マイクロプレート(TASCL以外)を用いた培養
スフェロイド・細胞塊を培養できるマイクロプレートは複数の種類が市販されています。しかしながらマイクロウェルは培地交換が難しく、培地交換の際に細胞が流れ出てしまうリスクがあります。また、培地がマイクロウェル内にとどまるために、同じ器材では細胞を数日程度しか培養できません。また、マイクロウェルの大きさ・形状が均一でないマイクロプレートもあり、その場合は、培養したスフェロイド・細胞塊の大きさ・形状も不均一となります。
TASCLと他のマイクロプレートの比較
・TASCLを用いた培養
TASCLはマイクロプレートと直接接することなく培地交換ができるため、培地交換が容易です。TASCLはマイクロウェルの底面に穴が開いており、多孔質膜を通じて培地やガスが循環することで細胞をフレッシュな状態に保つことができます。これにより一カ月間の培養が可能となり、TASCL上で分化誘導を図ることもできます。またマイクロウェルが均一な形状・大きさであるため、スフェロイド・細胞塊の大きさ・形状・品質の均一性が高いことも特徴です。また、1.65㎝四方の正方形に1000ウェルまたは600ウェルという高密度のため、使用する培地や試薬の量もわずかで済みます。